AI Tokenomics

BlackRock「マシンネイティブ経済」を解説:AIエージェントが成果物を作り、調達する時代

BlackRockの「The Machine-Native Economy」を麻布技術研究所が解説。AIエージェントの決済と計算資源の調達を整理し、成果物の生成と購入の共通性から、2種類のトークンとAIトークノミクスの接点を考察します。

Research Note

資料確認日:2026年9月27日

AIエージェントに調査報告書を依頼したとき、エージェントが資料を集めて生成する場合もあれば、条件に合う報告書を外部から購入してくる場合もあるでしょう。 人が必要な成果物を得るという目的から見れば、どちらも同じ依頼を実現する方法です。

BlackRockのホワイトペーパー『The Machine-Native Economy』は、AIとデジタル資産の接点を、情報の表現、決済、計算資源の市場という3つの論点から捉えています。 AIの普及が、デジタル資産の利用を広げる可能性を論じた資料です。原文PDF、p.2

当社は、この議論を、AIに成果物を作らせることと、AIを通じて成果物を調達することが、一つの経済活動としてつながる可能性から読みます。 以下では原文の要点と関連技術を整理し、後半で、2種類のトークンを成果物の獲得という共通の目的から捉える当社の仮説を示します。

マシンネイティブ経済とは

AIが業務を進めるには、情報を読むだけでなく、外部サービスを利用し、その対価を支払う場面があります。 こうした機械による処理を前提に、情報、取引、支払いをつなぐ経済のあり方を、本稿では**マシンネイティブ経済(Machine-Native Economy)**と呼びます。 「マシンネイティブ」は、機械が扱いやすい形式や手続きとして設計されている、という意味です。

たとえば、担当者が有料データの購入画面を毎回操作する業務を考えます。 価格と利用条件をAPIで取得でき、許可された範囲で支払いまで実行できれば、エージェントはデータ取得から分析までを続けて処理できます。 この例で自動化するのは購入の手続きです。 何のために購入してよいか、いくらまで使ってよいかは、業務を任せる側が決めます。

BlackRockのホワイトペーパーが示す3つの論点

原文の議論は、次のように整理できます。

論点 BlackRockの主張の要約 原文の該当箇所
情報と権利のトークン化 LLMとブロックチェーンは、機能は異なるものの、対象を機械が処理できる表現に変えるという類似性を持つ。 pp.3–4
AIエージェントの決済 少額で頻度の高い取引に、ステーブルコインなどを使うプログラム可能な決済が適合しうる。既存の決済基盤も役割を持つ。 pp.5–7
計算資源の市場 計算能力の利用権を標準化できれば、その取引、資金調達、決済がデジタル資産の用途になりうる。 pp.7–9

出典:BlackRock『The Machine-Native Economy』

同書は、エージェント決済の活動と計算資源市場の流動性が、まだ限られているとも述べています。 実装済みの仕組みと、これから市場が広がるという見通しを区別して読む必要があります。原文PDF、p.10

LLMのトークンとデジタル資産のトークンが表すもの

「トークン」という言葉は、生成AIと金融で異なるものを指します。 まず、それぞれが何を表すのかを確認します。

用語 表すもの 例
LLMのトークン モデルが文章などを処理するための単位。単語全体や単語の一部などに分割される。 プロンプトや回答を構成するテキストの断片
デジタル資産のトークン 資産や発行者に対する請求権などをデジタルに表現したもの。 トークン化された預金や証券

技術的な定義は、Hugging Faceのトークン化の解説と、BISの資産トークン化の解説に基づきます。

LLMのトークンは情報を処理する側に、デジタル資産のトークンは資産や権利を扱う側に位置します。 AIエージェントに生成と購入の両方を任せると、この2つが一つの依頼の中に現れます。 その接続を理解するために、決済と計算資源の調達の仕組みを見ていきます。

AIエージェントはどう支払うのか

エージェントによる購入を考えるときは、データへの接続、他のエージェントとの連携、購入手続き、決済を分けると整理できます。 関連する標準も、それぞれ異なる役割を持っています。

標準 主な役割 企業が理解しておきたいこと
MCP(Model Context Protocol) AIアプリケーションと外部のデータやツールを接続する。 ツールにつながることと、支払いを許可することは別の設計課題。
A2A(Agent2Agent) 独立したエージェント同士がタスクや結果をやり取りする。 複数のエージェントが関わる場合、委任先の支出も集計対象にする。
x402 HTTPを通じてAPIやコンテンツの支払いを扱う。 リソースへのアクセスと、その対価の支払いを結びつける。
ACP(Agentic Commerce Protocol) エージェントと販売者の間の購入手続きを標準化する。 販売者が既存のバックエンドや決済処理を維持できる設計。
MPP(Machine Payments Protocol) HTTPリクエストに伴う機械間の支払いを扱う。 対応する支払い方法を、利用するサービスや実装ごとに確認する。
AP2(Agent Payments Protocol) 購入や支払いの権限を、署名された情報で検証できるようにする。 誰が何を許可したかを、取引と結びつける。

各標準の役割はリンク先の公式資料、企業向けの確認事項は当社による整理です。 これらをすべて導入する必要はなく、実現したい業務と接続先から選びます。

x402では、HTTPの応答で支払い条件を伝える

Webサービスとのやり取りでは、サーバーが要求を受けた結果をHTTPのステータスコードで返します。 x402は、その一つである「402 Payment Required」を使い、有料サービスへのアクセスに必要な支払い条件を伝える仕組みです。 概略は次のようになります。

  1. クライアントが有料リソースを要求すると、サーバーが価格や支払い方法などの条件を返す。
  2. クライアントは条件に応じた支払いの承認情報を付けて、要求を再送する。
  3. サーバー側は支払い情報を検証し、採用した方式に応じて決済とサービス提供を処理する。

オンチェーンの決済が行われるタイミングは方式によって異なり、後からまとめて決済する方式もあります。x402公式「HTTP 402」

企業で使う場合、この処理の前に予算や購入先を確認する制御を置きます。 支払い要求を受け取る機能だけでは、「この業務のために買ってよい」という社内の判断まで代替できないためです。

既存の決済との接続も進んでいる

ACPは、販売者が既存の決済処理を保ったまま、エージェントと購入手続きを進める設計です。ACP公式ドキュメント 企業は、現在の販売管理や購買管理をどこまで活用できるかも含めて、導入方法を比較できます。

一方、ステーブルコインは、米ドルなどの参照対象に対して価値の安定を目指すデジタル資産です。原文PDF、p.6 実務上は、支払いのしやすさに加え、利用できる相手、保管方法、換金、返金、社内の記録との照合まで含めて選ぶ必要があります。 この確認は、決済の方式を業務に適合させるためのものです。

計算資源をAIが調達すると、何が変わるのか

エージェントが外部サービスを購入するなら、その対象にはAI自身が使う計算資源も含まれます。 本稿でいう**計算資源(compute)**は、モデルの学習や推論などを実行するための処理能力です。 企業がAPIを使う場合には、モデルサービスへのリクエストとして、その能力を利用します。

計算資源の利用権を取引する構想を、仮の契約で考えてみます。 「指定した期間と地域で、一定の性能を持つ計算能力を利用できる」という権利を予約し、条件に応じて他の利用者へ譲れるなら、利用企業には需要の変化に合わせて調達を調整する余地が生まれます。 その契約をデジタルに表現しても、実際の設備が約束どおり使えるか、使えなかった場合に誰が対応するかは、別途定める必要があります。 これは構想を理解するための説明例であり、特定の取引商品の紹介ではありません。

関連する動きとして、Stripeは2026年8月19日、モデルの選択と利用を仲介するOpenRouterの買収に合意したと発表しました。 同発表は、タスクの複雑さ、価格、速度、信頼性に応じたモデル選択を説明しています。Stripeの発表

当社は、計算資源の調達が、その先にある成果物の調達とつながると考えます。 ある分析を実行する計算能力を買い、モデルを動かして報告書を作る方法もあれば、その分析を得意とする外部のエージェントに報告書を発注する方法もあります。 人が求める成果物から見ると、どこまでを自分のエージェントに作らせ、どこからを外部に任せるかという選択になります。

成果物を作らせることと、調達させることの共通性

ここからは、BlackRockの議論を踏まえた当社の考察です。 原文が示す2種類のトークンの類似性を、成果物を得る人の立場から、さらに進めて考えます。

たとえば、ある市場について、意思決定に使える調査報告書が必要だとします。 必要な調査項目、情報の新しさ、出典、納期、社内での利用条件を決めたうえで、AIエージェントに依頼します。 この依頼には、少なくとも次の3つの実現方法があります。

成果物を得る方法 エージェントがすること 人が受け取るもの
生成する 資料を集め、LLMを使って分析し、報告書を作る。 指定した条件を満たす報告書。
調達する 条件に合う既存の報告書を購入するか、外部のエージェントに発注する。 指定した条件を満たす報告書。
組み合わせる 外部から分析結果を購入し、自社の情報を加えて報告書に仕上げる。 指定した条件を満たす報告書。

これは仕組みを説明するための仮想例です。 3つの方法を同じ成果への選択肢として扱えるのは、品質、納期、利用権、データの取り扱いなど、依頼に必要な条件を満たす場合です。

その条件が揃えば、「AIエージェントに成果物を作らせる」ことと「AIエージェントが外部から成果物を調達してくる」ことは、人にとって同じ目的を果たします。 どちらも、資源を投入し、利用できる成果物を得る経済活動です。 エージェントに任せる範囲は、文章を生成する手順から、成果物の入手方法を選ぶ判断へ広がります。

人が条件と予算を決め、AIエージェントがLLMによる生成と外部調達を比較して組み合わせ、条件を満たす成果物を用意する。生成側ではLLMのトークンが処理量を計測し、デジタル資産を使う調達側ではトークンが支払いと権利を表す。
図1:生成と調達を、同じ成果物を得るための選択肢として捉える当社の概念図。 品質、納期、利用権などの条件を満たすことを前提に、共通の予算で比較します。 調達側はデジタル資産で支払う場合を例示しています。 図を拡大して読む

2種類のトークンを、成果物の獲得から捉える

生成する場合、エージェントはLLMの処理を利用し、その量がトークンで計測されます。 デジタル資産を使って調達する場合、エージェントは支払いに使えるトークンを移転し、成果物やサービスを受け取ります。 処理量を数える単位と、支払いや権利を表す単位という違いは、前半で確認したとおりです。

ここで、人が成果物を得るまでの経済活動に視点を移します。 生成に必要なLLMトークンを見積もり、利用料金と確認作業の費用を合わせれば、生成によって成果物を得るための費用を計算できます。 外部調達でも、提示された購入価格に決済や確認の費用を加えれば、同じ成果物を得るための費用を計算できます。 両者は、同じ予算をどちらに配分するかという判断に接続します。

この接続を機械が扱えるようにするには、生成サービスと外部の販売者が、成果物の条件、見積額、納期、利用権などを比較可能な形で提示し、受け取った成果物が条件を満たすかを確かめられる必要があります。 それが実現すれば、エージェントは、生成に使う処理量と外部への支払いを、成果物を得るために投入する資源として選び、組み合わせられます。

供給者の側から見れば、LLMの処理に費用を投じて作った成果物を、別のエージェントに販売することも考えられます。 販売できる権利を持ち、買い手の条件を満たすなら、その対価を次の生成に回せます。 生成への支出、成果物の販売、次の生成への支出がつながり、LLMの利用とデジタル資産による決済が一つの経済的な循環を構成します。

当社が考えるのは、この共通化によって、LLMのトークンとデジタル資産のトークンを、成果物の獲得に使う価値の単位として、経済上は同じものとして扱える可能性です。 その際の換算関係は、モデルの料金や性能、外部の提示価格、成果物の条件によって変わります。 トークンの個数をそのまま1対1で交換するという意味ではなく、成果物に至るまでの資源配分を、共通の経済的な表現で扱うという仮説です。

生成と調達が代替し合うなら、この接続は、2つの仕組みが機械の扱える表現を使っているというアナロジーにとどまりません。 エージェントが自分で生成するか、外部から購入するかを選べることが、2種類のトークンを同じ経済活動の中に位置づけます。

生成と調達を一緒に扱うAIトークノミクス

当社が扱うAIトークノミクスは、AIの利用に伴う費用を、受け入れられた業務成果と結びつけて管理する考え方です。 具体的な計測方法は、AIトークノミクスの実務ガイドで説明しています。 この考え方を生成と調達の両方に広げれば、AIをどれだけ動かしたかに加え、必要な成果物をどの方法で得るとよいかを判断できます。

生成する場合には、モデル利用、資料の取得、再試行、人による確認や修正に費用がかかります。 外部調達の場合には、成果物の購入、決済、自社の用途への調整、確認に費用がかかります。 一つの依頼で両方を使う場合も、それらを同じ依頼の費用として集計します。

共通の比較単位には、受け入れた成果1件あたりの総コストを使えます。

成果単価 = 成果を得るためにかかった総コスト ÷ 品質条件を満たして受け入れた成果件数

失敗や再試行、購入したが使えなかった成果物の費用も含め、同じ依頼の成果を重複して数えないようにします。 受入件数がゼロなら成果単価は算出せず、総コストと未達件数を報告します。計算方法と費用範囲

この比較では、LLMのトークン単価が低い方法でも、完成までに多くの確認や修正を要すれば、外部から完成品を調達する方法より高くなることがあります。 反対に、外部の成果物を自社の用途に合わせる作業が大きければ、社内の情報を使って生成する方が適することもあります。 品質と納期などの条件を揃え、どの方法が目的に合うかを評価します。

エージェントに任せるのは、成果物の入手方法まで

この見方に立つと、人がエージェントに渡す指示も変わります。 「このモデルで、この手順を実行する」という指定に加えて、「この条件を満たす成果物を、この期限と予算の中で用意する」という依頼が考えられます。 エージェントは許可された範囲で、生成、外部への発注、既存成果物の購入を比較します。

その判断を評価するには、生成と調達のどちらを選んだか、なぜ選んだか、いくらかかったか、成果物が受け入れられたかを同じ依頼にひもづけて記録します。 見積もりと実績の差がわかれば、次の依頼で入手方法を改善できます。

マシンネイティブ経済を、このような成果物の獲得まで含めて捉えると、AIトークノミクスの対象も広がります。 生成に使う計算資源と、外部調達に使う購買力を、同じ成果のために配分する経済を扱うことになります。

よくある質問

マシンネイティブ経済とエージェンティックコマースの違いは何ですか

本稿では、マシンネイティブ経済を、機械が情報や取引を扱う経済全体の設計として捉えています。 その中で、AIエージェントが購入などの商取引に関わる領域がエージェンティックコマースです。 用語の範囲を説明するための、本稿での整理です。

MCPにつなげれば、AIは自動で支払えますか

MCPは外部のデータやツールに接続する標準です。 支払いを実行するには、対応するツールや決済の仕組みと、誰の権限でいくらまで支払えるかという制御を組み合わせます。MCP公式の説明

AIエージェントの決済に、ブロックチェーンは必須ですか

必須ではありません。 ACPのように販売者の既存の決済処理を利用する仕組みもあります。 購入先、金額、頻度、返金や照合の要件に合わせて決済方式を選びます。ACP公式の説明

AIトークノミクスを始めるには、暗号資産が必要ですか

必要ありません。 AIトークノミクスでは、モデル利用費や人の確認費用を、業務の成果に結びつけて測ります。 請求書払いやカード払いで利用するAIサービスでも実践できます。麻布技術研究所の実務ガイド

LLMのトークンとデジタル資産のトークンを、同じものとして扱えるのですか

成果物を生成して得る方法と、購入して得る方法を、共通の条件と予算で比較できるなら、成果物の獲得に使う価値の単位として扱える可能性があります。 これは当社の仮説です。 処理量や資産を表す技術上の違いを踏まえ、料金、品質、利用条件などを介して経済的に結びつけることを想定しています。

AIの費用と成果を、自社の業務で確かめる

麻布技術研究所のAIトークノミクスの実務ガイドには、成果単価の計算機と記録用CSVを掲載しています。 成果物を一つ選び、現在の生成や外部調達にかかる費用と、人の確認時間を記録するところから比較を始められます。

AIエージェントの導入や運用設計については、麻布技術研究所のお問い合わせフォームからご相談ください。

解説対象:BlackRock『The Machine-Native Economy: How digital assets connect intelligence, commerce, and compute』。 原文の著者はWill Su、Robert Mitchnick、Jay Jacobs、William Helmです。 本稿の実務上の確認事項と、生成と調達を共通の経済活動として捉える議論は、当社による整理と仮説です。